ヤクシマザル調査マニュアル参考資料

地図読みについて
(1996.6.28.松原始さんが京都大学野生生物研究会向けに作成されたものを一部改変)

 この文章は屋久島でのサル調査を意識して作成したものである。しかし山に入る機会が多いならば地図読みは決して無駄にはならない。むしろ必須とも言える技術である。もっとも技術、という程高度なことは私も知らないが、とりあえず基本だけ書いておくから、あとは本でも読むか、山岳部系の人にでも聞いて欲しい。

必要なもの
地図 細かいところまできちんと見るには国土地理院発行の「地形図」。登山用の地図(エリアマップ等)もあるが、大きすぎることが多い。ただし全体の把握とか、遠距離の目標を目印にするには使いやすい。地形図は1/25,000と1/50,000とあるが、どちらでもよい。まあ細部を見るという目的から言えば1/25,000であろう。

コンパス 回転ベゼル付きのものが使いやすい。シルヴァ(SILVA)社のが多いがどこのでも。軍用のミラーコンパスとかもあるが使い方はよく知らない。

現在位置の確認
 自分がどこにいるか分からない。こんな場合は
1) まず回りの見える場所を探す。
2) 地図で自分の位置の見当をつける。全く不明ということは滅多にない。歩いたんじゃないかと思うところを辿ればいい。
3) 回りの地形と見比べると、なんとなく対応がつくはずである。尾根が重なって見えないとか、不都合もあるだろうが、何か特徴があるはずだ。尖ったピーク(山頂)があるとか、だらだら長い尾根が見えるとか。そうすると、「このへんかな-?」という感じがつかめる。その上で景色を見ると、「あのコブがこれ、あの尾根がこう」と地図でたどれる。さらに「あっちにこういうピークがあるはずだが」というふうにも読める。
4) 何か特徴となる対象物、ピークとかコブ(尾根上の小さなピーク)、尾根が急に落ちるところとかを探す。平面状で位置を決めるのだから最低2ヶ所。3ヶ所ならなおよい。ただし重なったのはだめ。方向の違うものを選ぶ。
5) コンパスで確かめる。回転ベゼルつきのモデルとして話を進める。まずベースを対象物に向ける。板の真中に矢印があるはずだからこれを合わせる。次にベゼルの矢印に注目。これが北を向くようにベゼルを回して、磁針と合わせる。この状態で「対象物と磁北の角度」が決まったことになる。地図にコンパスを当てる。磁針は無視していいから、ベゼルの矢印が地図上で磁北を指すように乗せる。するとコンパスは「対象と自分を結ぶ線」と平行になる。コンパスを定規にして対象に当て、線を引くか、引いたつもりで覚えておく。
6) 複数の対象について繰り返す。2本か3本の線が引けるわけだ。方向が違うのだから線が交わるはずである。2本ならその交点が現在位置である。3本の場合は1点で交差するとは限らない。ふつう小さな三角形を描くが、その中心が現在位置である(図参照)。逆の手順で、「あのピークはどれだろう」と探すこともできる。
 なお、磁北は真北ではない。磁北線を地図に書きこんでおけば目標がぴったり特定できる。しかし6度程度だから笑ってごまかすことも一応可能。磁北偏差は地図に書いてある。

理論武装
 地図は地形の平面投影図である。したがってその中で任意の一点を定めるには軸が二つ必要である(距離を正確に判定できない以上は)。だから目標が二つ必要となる。さらに誤差を見こむと三つということである。
 ところでルートはふつう尾根の上である。尾根というのは線だから、自分がどの尾根にいるか確信があればすでに一軸は決まっていることになる。よってこの場合目標は最低一つでよい。
 さらに実際の山は三次元である。地図にも等高線として三次元情報が入っている。だから標高が分かればこれも位置決定に役立つ。しかし同じ標高が何度も出てくる場合はあまり使えない。高度計の誤差も考えると、やはり補助にとどめるべきであろう。もっともだらだらした登りの途中などでは目安にはなる。

注意
 1/25,000では等高線は10mおきである。ということは10m以下の凹凸は地図には現れない。平らに見えても実際はこぶがあることがある。とくに尾根が急に落ちるところは多い。

その他の目印
 尾根の走行も目印となる。また傾斜が変わるところ、尾根の合流点、谷の入り方、コブの感じ等、なんでも情報になると思ってよい。このような情報を総合して確認する。通った場所の様子を覚えているとさらに手がかりが増える。

地図を眺める
 等高線を見て大体の地形を把握する。尾根と谷が見えればそれでよい。
 等高線が密ならば当然傾斜は急である。とは言え、ふだん等高線を見て暮らしているわけではないのだから、具体的にどの程度の傾斜かを判断するのは難しい。一つの方法は知っている場所、例えば大文字山の地図と比べて見ることである。

ルートを読む
 基本的にルートは尾根の上を通る。分かりやすいし、歩きやすいし、傾斜も楽だからだ。まれに谷を通ることもあるが、谷は一般に地形が険しいので通るべきではない。谷を通るのは、隣の尾根に向かうためか、他によい道がない場合に限られる。登山道があればともかく、勝手に谷へ下りるのは厳禁。とくに屋久島の谷は深くて崖も多いから、「谷に下りたら死ぬ」。迷っても絶っ対に谷には下りるな!
 ルートを読むついでに目印の見当をつけておくのもよい方法である。

迷いやすい場所
 迷うのはたいてい下りである。尾根は登っていくと合流するだけだから、どう歩こうが一番高いところ、つまり山頂へは行ける。ところが下りでは尾根が途中で分岐してしまうからどっちへ下りるかで行き先が変わる。しかも分岐点は尾根がはっきりしなくなることが多いのでなおさら迷いやすい。だいたい下りは傾斜方向が分かりにくく、下手をすると尾根から外れてしまうこともある。とにかく、尾根にいる限り自分の前か後ろが一番高い方向である。横に高いところがあったら、尾根から外れている。迷いやすそうなところではとくに注意して歩く必要がある。とにかく尾根を外さずに歩くこと。
 屋久島の調査ではテープを木に巻いて目印としているが、登りと下りでは視点が違うので注意が必要。登りながら巻いたテープは下りでは見えないことがある。

迷ったら
 とりあえず落ち着く。どう歩いたか思い出して、どこで迷ったか考える。基本は「分かるところまで戻る」である。下りで迷ったなら、尾根を登っていけば自動的にもとの場所へ戻るはず。分からないまま進むとよけいドツボにはまる。歩くのは尾根の上。繰り返すが、安全が確認できていない限り絶っ対に谷には下りるな!

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