調査隊の業績


学術論文

1.
執筆者:大井徹、好廣眞一、東英生、手塚牧人、東滋
タイトル:ニホンザルの新センサス法、ブロック分割定点調査法の有効性. 
収録雑誌:霊長類研究 10: 77-84. 1994年
分析対象年:1990年

 区画の中に定点調査員を配置してニホンザルの集団密度や個体群密度を推定する新しい方法を開発した。調査域を500m四方の区画に分割した。調査員は区画全体を見渡せる場所で定点調査を行った。すべての調査員は同時に直接観察と音声情報をもとにサルの集団を探し、地図上に集団の動きを記録した。同一の集団を二つ以上の定点で観察する可能性があるため、調査員どうしはトランシーバーで連絡を取りあった。調査の終わりに、発見された集団の数を集計した。この方法は、一つの集団のサイズが数えられていれば個体群密度を推定する方法としても使用できる。ライントランセクト法の実施が難しい屋久島の急峻な山岳地帯で、調査経験のない学生が9.5km2の調査域でセンサスを行った。1回のセンサスでは、2-4 km2の調査域を7時から17時まで調査した。この調査域の中には、1973年以来の長期調査によって10から11群が生息していることが知られている。この調査域は方法の正確性を確認するために用いられた。方法の再現性を確認するため、三つの調査域がそれぞれ2ないし3回調査された。さらに、経験豊かな追跡者がサルの集団を追跡して集団の正確な位置を記録し、定点調査員による発見率を求めた。サルは多くの場合大きな音声によって発見され、75%の集団は7時の調査開始後3時間以内に発見された。また、調査開始後8時間を経過すると、新しく群れが発見されることはなかった。発見率はすべての定点調査員のうち実際に集団を発見した定点調査員の数の割合として計算した。発見率は定点から離れるにしたがって指数関数的に減少した。集団を発見した集団-定点間距離の最大値は720mであった。集団の分布が明らかになっている地域内での最初の調査日には、調査経験のない学生は20%の集団しか発見できなかったが、二日目には60-70%の集団を発見した。ほかの地域の調査でも同様の傾向であった。あらかじめ一日か二日の調査実習を行えば、調査経験のない学生でも十分な正確さと再現性を持って急峻な山岳地帯でこの方法は使用できると結論できる。この方法がもしほかの条件で使用される場合は、正確性の評価が第一に必要である。<要旨の原文は英文>

2.
執筆者: Yoshihiro S, Furuichi T, Manda M, Ohkubo N, Kinoshita M, Agetsuma N, Azuma S, Matsubara H, Sugiura H, Hill D, Kido E, Kubo R, Matsushima K, Nakajima K, Maruhashi T, Oi T, Sprague D, Tanaka T, Tsukahara T & Takahata Y (好廣眞一、古市剛史、萬田正治、大久保直利、木下真弓、揚妻直樹、東滋、松原始、杉浦秀樹、デービッド・ヒル、木戸悦子、久保律子、松嶋可奈、中島健介、丸橋珠樹、大井徹、デービッド・スプレイグ、田中俊明、塚原高広、高畑由起夫)
タイトル: The distribution of wild Yakushima macaque (Macaca fuscata yakui) troops around the coast of Yakushima Island, Japan.
収録雑誌:霊長類研究14: 179-187. 1998年
分析対象年:1990、1991、1992、1993年

 鹿児島県屋久島の海岸線から1〜2kmまでの地帯、計127.26km2において、ヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)の野生群の分布状態を調査した。その結果、131群の存在が推定された。植生と群れの分布状況から、ヤクシマザルは自然の広葉樹林に強く依存する傾向が認められた。とくに自然植生が残っている西部海岸において群れの密度が最も高かった。センサスでは、合計1,852頭のヤクシマザルをカウントした。推計では、約2,000-2,850頭のサルが調査域内に生息するものと思われる。

3.
執筆者:好廣眞一、大竹勝、座馬耕一郎、半谷吾郎、松原始、谷村寧昭、久保律子、松嶋可奈、早川祥子、小島孝敏、平野晃史、高畑由起夫
タイトル:屋久島東部ヤクスギ林帯におけるヤクシマザルの分布と糞分析による食性の調査. 
収録雑誌:霊長類研究14: 189-199. 1998年
分析対象年:1996年

ヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)の野生群の分布調査を屋久島の標高1,020-1,830mの10.5km2の地域で行った。常緑広葉樹林とヤクスギ林の移行帯にあたる5km2の地域では、群れサイズは約20頭と大きく、遊動域も大きかった。群れ密度はおよそ0.7群/km2であった。群れの中には観光客によって餌付いているものもあった。標高1,260-1,830m、面積5.5km2のヤクスギ林内の調査地では、群れサイズも遊動域も小さく、群れ密度はおよそ1.4-1.5群/km2であった。糞分析によればこの地域のニホンザルは海岸部のサルより常緑樹の葉を多く食べていることが示唆された。<要旨の原文は英文>

4.
執筆者:Yoshihiro S, Ohtake M, Matsubara H, Zamma K, Hanya G, Tanimura Y, Kubota H, Kubo R, Arakane T, Hirata T, Furukawa M, Sato A & Takahata Y (好廣眞一、大竹勝、松原始、座馬耕一郎、半谷吾郎、谷村寧昭、久保田裕之、久保律子、荒金辰浩、平田亨、古川真理、佐藤暁、高畑由起夫)
タイトル:Vertical distribution of wild Yakushima macaques (Macaca fuscata yakui) in the western area of Yakushima Island, Japan: preliminary report.
収録雑誌:Primates 40: 409-415. 1999年
分析対象年:1993、1994、1995年

ヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)の野生群の分布調査を屋久島西部海岸部の23km2の地域で行った。調査結果はサルの分布が植生の垂直変化に応じてどのように変わるのかを探るために分析された。標高300m以下の低地部では、密度は1km2あたり4.8群ないし62.4-99.8頭と推定された。標高300-900mの中腹部では、群れ密度は1km2あたり1.3-1.6群まで低下した。低地部と中腹部では群れサイズに違いはなかったので、中腹部の個体群密度は1km2あたり30-36頭まで低下したことになる。一方、標高900-1,323mの国割岳山頂部では、密度は1km2あたり2.4群ないし36頭と推定された。<原文は英文>

5.
執筆者:Hanya G, Yoshihiro S, Zamma K, Kubo R & Takahata Y (半谷吾郎、好廣眞一、座馬耕一郎、久保律子、高畑由起夫)
タイトル: New method to census primate groups: estimating group density of Japanese macaques by point census.
収録雑誌:American Journal of Primatology 60: 43-56. 2003年
分析対象年:2000年

 地形が急峻なために通常のライントランセクト法が行えない生息環境で霊長類の集団の密度を推定する新しい方法を開発した。この方法では、定点調査と集団追跡を同時に行った。定点で1時間の間に発見した集団の数nから、集団密度DはD=λn/πとして計算される。ただし、λは距離に依存した発見率g(y)をhalf-normal modelに回帰したときの定数であり、集団追跡と定点調査の情報を組み合わせることで計算できる。この方法を用いて屋久島のニホンザルの集団密度を推定した。7km2の調査域を500m四方の28の区画に分割した。それぞれの区画の中に定点を決め、そこにひとりの観察者を配置した。これらの定点は4ないし6日間にわたり6時ないし7時から15時ないし16時までのあいだ、同時に調査を行った。定点調査のあいだ、四つの群れを合計144時間にわたって追跡した。集団・定点間の距離と発見率の関係は、half-normal modelによく適合した。発見率定数は時間帯によって異なったが、群れや地形要因による違いはなかった。集団密度の95%信頼区間は撹乱地、および自然林でそれぞれ1.48±0.61集団/km2、0.701±0.432集団/km2と計算された。遊動域から計算された「真の」集団密度は、二つの群れについては各々の群れの遊動域内の定点での定点調査から計算された推定密度の信頼区画の中にあった。この方法は、定点調査の基本的仮定を満たし、群れや地形によって影響を受けないことから、少なくとも一つの集団が追跡可能であればほかの種にも適応できる。<原文は英文>

6. 2005年度Ecological Research論文賞受賞論文 授賞式の様子
執筆者: Hanya G, Yoshihiro S, Zamma K, Matsubara H, Ohtake M, Kubo R, Noma N, Agetsuma N & Takahata Y (半谷吾郎、好廣眞一、座馬耕一郎、松原始、大竹勝、久保律子、野間直彦、揚妻直樹、高畑由起夫)
タイトル:Environmental determinants of the altitudinal variations in relative group densities of the Japanese macaques on Yakushima.
収録雑誌:Ecological Research 19: 485-493. 2004年
分析対象年:1993、1994、1995、1997、2000年

 屋久島のニホンザルの相対集団密度の標高による変異を調査した。この調査地には、捕食者、潜在的に競合関係にある近縁種、過去の災害など、定量化が難しいが動物の密度に影響を与える可能性がある要因の影響を無視できるという利点がある。相対集団密度は標高0-400 mの海岸部で高く、その他の標高帯(400-800 m、800-1200 m、1200-1886 m)のあいだでは差がなかった。この密度の変異の要因を明らかにするため、単位面積あたりの食物樹の基底面積、果実の利用可能性の季節変化、液果の年間総生産量の3つの環境指標を標高によって比較した。いずれの指標を用いていも、果実または種子食物は海岸部でもっとも豊富だった。つまり、屋久島のニホンザルの密度の標高による変異は、年間を通じた食物の利用可能性によって決まっている。<原文は英文>

7.
執筆者: Hanya G, Zamma K, Hayaishi S, Yoshihiro S, Tsuriya Y, Sugaya S, Kanaoka MM, Hayakawa S & Takahata Y (半谷吾郎、座馬耕一郎、早石周平、好廣眞一、釣谷洋輔、菅谷周司、金岡雅浩、早川祥子、高畑由起夫)
タイトル:Comparisons of food availability and density of Japanese macaques in primary, naturally regenerated and plantation forests.
収録雑誌:American Journal of Primatology 66: 245-262. 2005年
分析対象年:2000、2001、2001、2003年

屋久島のニホンザルの食物利用可能性と密度を自然林と二つの異なる方法で更新された伐採地の間で比較した。調査地には伐採されていない国立公園、7−18年前に伐採されてその後自然に更新された地域(天然更新地)、19−27年前に伐採されてその後スギが植林された地域が含まれる(人工更新地)。人工更新地は少数の大きなスギの木からなり、天然更新地は多数の小さな木から構成されていた。自然林の基底断面積合計と木の本数はほぼ人工更新地と同様であった。年間の総果実生産量は天然更新地で最大で、自然林で中間であり、人工更新地ではほとんどゼロだった。草本の利用可能性は天然更新地で高く、人工更新地と自然林で低かった。ニホンザルの集団密度は天然更新地で高く、自然林では中間であり、人工更新地で低かった。天然更新地の集団サイズは小さかったので、個体密度は天然更新地と自然林でほとんど差がなかった。この結果は、更新の方法によってニホンザルへの影響が異なることを示している。人工更新地は、花だけしか食物を供給しないスギだけから構成されており、サルの密度も低かった。一方、天然更新地では果実生産と草本の利用可能性が高く、サルの密度も高かった。果実生産と草本の利用可能性の向上は、伐採後の光条件の改善によるものと考えられる。<原文は英文>

Key words: Cryptomeria japonica; expansive afforestation; frugivore; logging; natural regeneration; plantation

8.
執筆者:Hayaishi S & Kawamoto Y (早石周平、川本芳)
タイトル:Low genetic diversity and biased distribution of mitochondrial DNA haplotypes in the Japanese macaque (Macaca fuscata yakui) on Yakushima Island
収録雑誌:Primates 47: 158-164. 2006年. DOI:10.1007/s10329-005-0169-1
調査域内における試料採集年:2000年

ヤクシマザルは屋久島に固有のニホンザルの亜種である。地理的に近い九州本土のニホンザルとの系統関係を明らかにするために、島内一円から集めた糞を使って、ミトコンドリアDNAのコントロール領域203塩基の配列を調べた。その結果280個体分の試料から、6つの変異タイプが観察された。いずれのタイプも九州本土で得られた配列と異なっており、ヤクシマザルは単系統であることが判明した。塩基多様度は低く、0.0021だった。280個体分の配列を比較したところ、屋久島集団が急速に個体数を拡大したことを示唆した。また、これはボトルネック効果に関連があると推測された。6変異タイプの島内分布は均一ではなかった。1変異タイプは広く見つかるが、その他の5変異タイプは低地だけに見つかった。低い遺伝的多様性と偏った地理的分布は、およそ7,300年前起こった火山活動と、その後の島の生物の回復過程と関係があると考えられた。<原文は英文>

Keywords: Bottleneck; Low genetic diversity; Macaca fuscata yakui; MtDNA; Phylogeography

9.
執筆者: Hanya G, Matsubara M, Hayaishi S, Zamma K, Yoshihiro S, Kanaoka MM, Sugaya S, Kiyono M, Nagai M, Tsuriya Y, Hayakawa S, Suzuki M, Yokota T, Kondo D &Takahata Y (半谷吾郎、松原幹、早石周平、座馬耕一郎、好廣眞一、金岡雅浩、菅谷周司、清野未恵子、永井真紀子、釣谷洋輔、早川祥子、鈴木真理子、横田高士、近藤大介、高畑由起夫)
タイトル:Food conditions, competitive regime, and female social relationships in Japanese macaques: within-population variation on Yakushima.
収録雑誌:Primates 49: 116-125. 2008年.
分析対象年:2000、2001、2002、2003、2004、2005、2006年

屋久島のニホンザルの食物条件、採食競合のパターン、メスの社会関係を、海岸部(標高0-200m)と、ヤクスギ林(標高1000-1200m)に生息する群れのあいだで比較した。果実の利用可能性は海岸部で高かった。群れ内の採食中の攻撃頻度には、生息地間で一貫した傾向がなかった。海岸部では、ヤクスギ林に比べて群れ間の出会いの頻度が高く、攻撃的な出会いが多いため、より群れ間の競合が激しいと考えられた。出産率は、海岸部では大きな群れで高い傾向があったが、ヤクスギ林ではそのような傾向は見られなかった。採食競合のパターンにこのように違いがあるにもかかわらず、メス間の社会関係、たとえば毛づくろいの方向性や、特定の個体への集中度、順位の直線性、攻撃時の反撃や血縁者への援助などには、生息地間でまったく違いが見られなかった。この結果は、ニホンザルのメスの社会関係は安定であり、現在の環境の変化に対して柔軟に変化しているわけではないことを示している。<原文は英文>

Key words: socioecology, feeding competition, within-group contest, between-group contest

10.
執筆者: 岡久雄二
タイトル:屋久島におけるアカヒゲErithacus komadoriの確実な観察記録
収録雑誌:山階鳥学誌 42: 91-95. 2010年.
分析対象年:2006、2007、2008年
2012年の調査で撮影されたアカヒゲの写真を、調査風景に掲載しています。

2006、2007、2008年の8月に、合計15羽のアカヒゲが屋久島の中腹で確認された。アカヒゲは屋久島ではほとんど観察されたことがなく、これが写真を伴った初めての確実な観察記録である。<要旨の原文は英文>

キーワード: アカヒゲ、Erithacus komadori、屋久島


11.
執筆者: Otani Y, Yoshihiro S, Takahata Y, Zamma K, Nagai M. Kanie M, Hayaishi S, Fujino M, Sugaya K, Sudo M, Amanai S, Kaneda M, Tachikawa Y, Fukunaga Y, Okahisa Y, Higashi K & Hanya G (大谷洋介、好廣眞一、高畑由起夫、座馬耕一郎、永井真紀子、蟹江真人、早石周平、藤野正也、菅谷和沙、須藤正彬、天内史織、金田全人、立川佳晴、福永恭啓、岡久雄二、東加奈子、半谷吾郎)
タイトル:Density of Japanese macaque(Macaca fuscata yakui) males ranging alone: seasonal and regional variation in male cohesiveness with the group
収録雑誌:Mammal Study 38: 105-115. 2013年.
分析対象年:2003、2004、2005、2006、2007、2008年

屋久島に生息するニホンザルのうち、単独で遊動するオスの密度を植生・季節・標高の異なる2地域の間で比較した。上部(標高700-1300m)では、単独オス密度は植生によっては変化しなかった。一方で、交尾期の単独オス密度は非交尾期の3分の1程度になっていた。これはオスがメスを求めて集団に集まるためだと考えられる。また非交尾期において、個体群密度が高く集団間競合のより激しい海岸部(標高0-300m)に比べると、上部では4倍程の数のオスが単独で遊動していた。上部の単独オスの絶対密度は1.2-5.7/km2(個体群密度:19.3/km2)であった。相当数のオスが集団を離れて単独で遊動することが確認され、オスの集団への凝集性が環境や状況によって柔軟に変化することが示された。<原文は英文>

Keywords: group size; male reproductive strategy; point census; population; ranging behavior


12.
執筆者: 宮田晃江、好廣眞一、高畑由起夫、萬田正治、古市剛史、栗原洋介、早石周平、半谷吾郎
タイトル:屋久島のニホンザル生息状況の過去20年間の変化
収録雑誌:霊長類研究 33: 35-42. 2017年.
分析対象年:1991、1992、1993、1994年

1991年−1994年から、2013−2014年にかけての、屋久島低地でのニホンザルの数の変動を調査した。ニホンザルの数は、定点調査での発見頻度を指標とした。1991年−1994年の7月・8月に、271の定点、2013−2014年の7月から9月に、58の定点を調査した。ニホンザルの数は北部と東部で有意に減少していたが、西部と南部では変わらなかった。1991年−1994年当時の推定生息数と、2007年−2013年の有害捕獲頭数を比較すると、北部と東部で捕獲圧が高く、南部では低く、西部ではまったく捕獲がなかった。針葉樹人工林は北部と東部で広く広がっており、これもこれらの地域のニホンザルの減少に関連しているかもしれない。2009年以降、ニホンザルの有害捕獲頭数は1000頭を超えている。われわれの結果は、ニホンザルの捕獲数が過剰であることを示唆しており、とくに北部と東部では、捕獲以外の方法による対策を強化することが望まれる。<要旨の原文は英文>


13.
執筆者: Hanya G, Otani Y, Hongo S, Honda T, Okamura H, Higo Y (半谷吾郎、大谷洋介、本郷峻、本田剛章、岡村弘樹、肥後悠馬)
タイトル:Activity of wild Japanese macaques in Yakushima revealed by camera trapping: Patterns with respect to season, daily period and rainfall
収録雑誌:PLoS ONE 13: e0190631. 2018年
分析対象年:2014、2015年

動物は、さまざまな時間スケールで変動する環境に住んでおり、その中でも1日と1年を周期とした変動は、もっとも普遍的に見られる。時間によって変動する生物・非生物要因はたくさんあるが、その中でも、体温調節のコストを通じて動物に直接影響する気象要因はとりわけ重要である。本研究の目的は、温熱条件に着目して、野生のニホンザルの活動パターンを明らかにすることである。われわれは、屋久島のヤクスギ林に30個のカメラトラップを設置し、2014年7月から2015年7月の8658カメラ・日のあいだ、動画の撮影を行った。1年間を通じて、ニホンザルの活動に、気温は正の、雨は負の影響を与えていた。一日の中では、撮影頻度は日の出後1時間と、昼間に高かった。冬になると、活動が正午付近に集中し、さらに午前中から午後に移る傾向が見られた。これは、寒い季節には、1日の中でより暖かい時間帯に活動するようになった結果であると解釈できる。気温が低いと、日の出一時間前の時間帯の活動が減る傾向が見られた。ニホンザルにとっては、寒い季節には1日の中の寒い時間帯を避けるほうがよいのだろう。30分あたり0.5-1mmのごく弱い雨でも、ニホンザルの撮影頻度は有意に低下し、ごく少量の雨もニホンザルの活動に負の影響を与えることが明らかになった。温熱条件は、野生ニホンザルの活動に、さまざまな時間スケールで影響していることが明らかになった。<原文は英文>


14.
執筆者:Hanya G, Morishima K, Koide T, Otani Y, Hongo S, Honda T, Okamura H, Higo Y, Hattori M, Kondo Y, Kurihara Y, Jin S, Otake A, Shiroisihi I, Takakuwa T, Yamamoto H, Suzuki H, Kajimura H, Hayakawa T, Suzuki-Hashido N, Nakano T (半谷吾郎、森嶋佳織、小出智矢、大谷洋介、本郷峻、本田剛章、岡村弘樹、肥後悠馬、服部正道、近藤湧生、栗原洋介、神さくら、大竹阿士、白石泉、高桑ともみ、山本寛樹、鈴木華実、梶村恒、早川卓志、鈴木-橋戸南美、中野隆文)
タイトル:Host selection of hematophagous leeches (Haemadipsa japonica): implications for iDNA studies
収録雑誌:Ecological Research 34: 842-855. 2019年
分析対象年:2014、2015、2016、2017、2018年

効率的でコストのかからない方法で個体群や生物多様性をモニターする方法の開発は急務であり、無脊椎動物由来のDNA(iDNA)は、脊椎動物の多様性や、その他の生態学的情報の収集手段として有望な方法である。われわれは、屋久島の吸血性のヒルであるヤマビルの宿主を、遺伝的バーコーディングによって調べ、その結果をカメラトラップで調べた哺乳類の種構成と比較した。119のヒルサンプルを、サンガーシーケンスによって2つのプライマセットで、次世代シーケンスによってひとつのプライマセットで分析した。三つの方法によって、シーケンスが成功して宿主が同定できた割合は11.8-24.3%と異なっていた。どの方法でも、ほとんどのサンプルの宿主はシカ(18/20, 6/15, 16/29)もしくはヒト(2/20, 7/15, 21/29)と同定された。ヒト以外の宿主の哺乳類の種構成は、カメラトラップで調べられた種構成と大きく異なっていた。シカはもっとも主要な宿主だったが、それは彼らの高い密度、大きな体サイズ、地上性などのためだろう。10サンプルでは、ひとつのサンプルから複数の脊椎動物種が検出された。これは、採取・実験段階でのヒトのDNAの混入の可能性もあるが、シカ、ニホンザル、ヤクシマタゴガエルのDNAがひとつのサンプルから検出された例があったため、ヒルの複数回の食事内容が両方反映されることはある、と考えられる。ヤマビル由来のiDNAは、その場所の種構成を明らかにする目的には向かないが、その高い選択性のゆえに、対象となる種(この場合はシカ)の遺伝的情報を集める目的では、有用かもしれない。<原文は英文>


15.
執筆者:Lee W, Hayakawa T, Kiyono M, Yamabata N, & Hanya G (Lee Wanyi、早川卓志、清野未恵子、山端直人、半谷吾郎)
タイトル:Gut microbiota composition of Japanese macaques associates with extent of human encroachment
収録雑誌:American Journal of Primatology 81: e23072. 2019年
分析対象年:2013年

近年、人口増加と都市化に伴って、野生動物と人の交渉や人為的な餌付けの増加が問題になっている。腸内細菌が、栄養や健康など、宿主の生理状態に影響することを考えると、野生動物と人との関わりや、人為的な食物の利用可能性が、動物の腸内細菌に与える影響は重要である。本研究では、人とのかかわりがさまざまな程度のニホンザル(Macaca fuscata)の腸内細菌を調査し、腸内細菌が、人為的食物への依存の指標になりうるかを検討した。リボソームRNAの16S領域の配列を解読し、野生、餌付け、農作物被害、飼育群について、腸内細菌叢を比較した。アルファ多様性については、人への依存の程度によっては違いは見られなかったが、採取場所による違いが見られた。Shannonの多様度指数については、人への依存の程度と、採取場所の両方で違いが見られた。ベータ多様性に関しては、飼育個体がもっとも他からはなれた腸内細菌叢を有していた。餌付け群と農作物被害群は、飼育群と野生群の中間的な構成だった。さまざまな分類の階層の細菌のグループの量が、人為的食物への依存に応じて変化していた。本研究は、ニホンザルの腸内細菌の可塑性を示し、人為的食物への依存の程度の指標となりうる可能性のある分類群を提示することができた。<原文は英文>


16.
執筆者:Hanya G, Yoshihiro S, Hayaishi S & Takahata Y (半谷吾郎、好廣眞一、早石周平、高畑由起夫)
タイトル:Ranging patterns of Japanese macaques in the coniferous forest of Yakushima: home range shift and travel rate
収録雑誌:American Journal of Primatology 82: e23185. 2020年
分析対象年:2000、2001、2002、2003、2004年

季節的に変動する食物・温度条件に対処するために、遊動は最も重要な行動適応の一つである。われわれは、屋久島のヤクスギ林に生息するニホンザルの1群を17か月間追跡し、その遊動パターン、とくに行動圏の変動と遊動速度について研究した。さらに、その資料を、毎年8月に5年間にわたって行われた個体数調査の結果で補完した。このニホンザルの群れは、5月から9月にかけて行動圏の東側を、それ以外の季節には西側を利用した。行動圏の東側は主に国立公園内の原生林であり、標高は西側より高かった。西側を利用するときは、このニホンザルの群れは伐採地で利用可能性がより高い、草本や小さなサイズで結実する種の果実をよく食べた。この東西方向の行動圏の季節移動は、複数年にわたり繰り返し観察された。夏には、この群れによって利用されなくなった行動圏の西側は、隣接する別の群れによって利用されていた。気温と食性の両方が、月ごとの平均遊動速度に影響していた。動物は冬には体温調節のためにより多くのエネルギーを必要とするため、この群れは低温時にエネルギーを節約するために遊動距離を減らしていた。彼らはキノコを食べるために遊動距離を長くしていたが、これはキノコにたくさん出会うためにはより長い距離を動く必要があるためだろう。彼らは、パッチ(採食樹)密度の低い花を採食する際も遊動距離を伸ばしていた。これらの結果は、季節的に変動する環境下で、ニホンザルは行動圏を移動させ、遊動距離を変化させることで、環境の異質性を活用しているのだという仮説を支持する。<原文は英文>


17.
執筆者:半谷吾郎、好廣眞一、YANG Danhe、WONG Christopher Chai Thiam、岡桃子、楊木萌、佐藤侑太郎、大坪卓、櫻井貴之、川田美風、F. FAHRI、SIWAN Elangkumaran Sagtia、HAVERCAMP Kristin、余田修助、GU Ningxin、LOKHANDWALA Seema Sheesh、中野勝光、瀧雄渡、七五三木環、本郷峻、澤田晶子、本田剛章、栗原洋介
タイトル:道路上の糞を探す踏査で明らかになった屋久島のニホンザルの全島分布(2017‐2018年)
収録雑誌:霊長類研究 36: 23-31.2020年
分析対象年:1991、1992、1993、1994、1995、1996、1997年

屋久島の野生ニホンザルの全島の分布を2017年と2018年の5月に調査した。総計165.4キロメートルの道路を歩き、842個の糞の位置を記録した。踏査した道路を50メートルの線分(N=3308)に区分し、その周囲の農地と住宅地の面積、人工針葉樹林の面積、有害鳥獣捕獲の有無が、糞の有無に与える影響を検討した。過去20年間の増減の傾向をもとに、屋久島全体を三つに分けた。北部および東部は有害鳥獣捕獲があって個体数は減少傾向であり、南部は有害鳥獣捕獲があって個体数は増減なし、西部は有害鳥獣捕獲がなく増減もない。空間自己相関を考慮した条件付自己回帰モデルによると、屋久島全体の分布には、農地および住宅地の面積のみが、サルの分布に負の影響を与えていた。有害鳥獣捕獲の負の影響は、北部および東部でのみ見られ、人工針葉樹林の負の影響は、西部でのみ見られた。1990年代の分布調査の結果と定性的に比較すると、かつてはサルが頻繁に発見されていた、屋久島北部の集落の民有地付近では、糞がほとんど発見されていないことが分かった。南部や高地では、1990年代と2017‐2018年の間で、サルの分布に大きな違いは見られなかった。本研究の結果は、北部と東部では集落の近くからほとんどサルが消失していることを示唆している。近年、サルによる農作物被害は顕著に減少していることから、北部と東部での有害鳥獣捕獲を減らし、電気柵などのほかの対策により重点を置くことを提案する。<要旨の原文は英文>


18.
執筆者:Hanya G, Yoshihiro S, Yamamoto H, Ueda Y, Kakuta F, Hiraki M, Otani Y, Kurihara Y, Kondo Y, Hayaishi S, Honda T, Takakuwa T, Koide T, Sugaya S, Yokota T, Jin S, Shiroishi I, Fujino M, Tachikawa Y (半谷吾郎、好廣眞一、山本寛樹、上田羊介、角田史也、平木雅、大谷洋介、栗原洋介、近藤湧生、早石周平、本田剛章、高桑ともみ、小出智矢、菅谷周司、横田高士、神さくら、白石泉、藤野正也、立川佳晴)
タイトル:Two-decade changes in habitat and abundance of Japanese macaques in primary and logged forests in Yakushima: Interim report.
収録雑誌:Forest Ecology and Management 545: 121306. 2023年
分析対象年:2000、2001、2002、2003、2004、2005、2006、2007、2008、2009、2010、2011、2012、2013、2014、2015、2016、2017、2018、2019年

動物の個体数に関するデータは、断続的ではなく連続的であることが、個体数の変動をもたらす因果関係を明らかにする上で理想的である。本研究では、2000年から2019年までの20年間にわたり、伐採後の森林の更新が、ニホンザルの生息地、食物利用可能性、個体数に及ぼす影響を、毎年実施した継続的な個体数調査に基づいて明らかにした。原生林、1984年から1995年までに伐採され、その後自然に更新した森林(天然更新地)、1975年から1983年までに伐採され、その後スギが植林された森林(人工林)の3つの植生タイプ(面積7.5 km2)を調査地とした。天然更新では、樹木の個体数と総バイオマス量の両方が増加し、特に自然に更新したスギが増加した。植林地では、樹木の数は減少し、総バイオマスは変化しなかったが、これは主に2015年の間伐(木材を収穫するために植林されたスギの一部を除去すること)によるものであった。状態空間モデルから、2012年以降、天然更新地の果実生産量が原生林の果実生産量に比べて相対的に低くなる傾向があることが示唆されたが、これは天然更新地のスギ以外の広葉樹や低木を除去するための除伐によってもたらされたものだあった。空中写真を分析した結果、2009年から2014年にかけて、自然再生林における自然に更新したスギのパッチが増加していることが検出された。また、天然更新地ではニホンザルの個体数減少が観察されたが、原生林や人工林では見られなかった。状態空間モデルから、この減少は調査期間の前半に発生しており、これは天然更新地でスギのパッチが入れ替わるよりも早い時期であった。今回のデータは時間分解能が高いため、天然更新地での食物利用可能性が低下したために、サルが数を減らしたという単純なシナリオは成り立たない。天然更新地の利用頻度が低下したのは、確率的なできごととして始まった。つまり、そこで遊動していた群れの複数の個体が消失し、その後の生息環境の変化が、天然更新地にサルが少なくなるという傾向を強めたのである。<原文は英文>



19.
執筆者:Lee W, Hayakawa T, Kiyono M, Yamabata N, Enari H, Enari HS, Fujita S, Kawazoe T, Asai T, Oi T, Kondo T, Uno T, Seki K, Shimada M, Tsuji Y, Langgeng A, MacIntosh A, Suzuki K, Yamada K, Onishi K, Ueno M, Kubo K, Hanya G (Lee Wanyi、早川卓志、清野未恵子、山端直人、江成広斗、江成はるか、藤田志歩、川添達朗、浅井隆之、大井徹、近藤崇、宇野壮春、関健太郎、島田将喜、辻大和、Langgeng A、MacIntosh A、鈴木克哉、山田一憲、大西賢治、上野将敬、久保賢太郎、半谷吾郎)
タイトル:Diet-related factors strongly shaped the gut microbiota of Japanese macaques.
収録雑誌:American Journal of Primatology e23555. 2023年
分析対象年:2013年

腸内細菌叢の機能に関する知識は過去数十年で大幅に増加したが、その生態と進化を支配するメカニズムに関する理解は依然として曖昧なままである。大規模な研究や飼育下では宿主の遺伝的距離は腸内細菌叢の強力な予測因子であるが、より細かい分類学的スケール、特に自然環境において最近分岐した動物の間では、その影響は必ずしも明らかではない。我々は、日本列島に生息するニホンザルの19個体群の腸内細菌叢を比較し、ニホンザルの腸内細菌叢に影響を及ぼす宿主の遺伝的距離、地理的距離、および食物に関する要因の相対的役割を評価した。その結果、ニホンザルはコアとなる腸内細菌叢を維持している可能性が示唆されたが、一方で各集団は特定の生息地・食物からいくつかの微生物を獲得している可能性がある。季節、森林、人為的食物への依存などの食物関連要因は、マカクの腸内細菌叢の形成により強い役割を果たした。近縁の哺乳類宿主の間では、宿主の生理学的差異は一般に小さいため、宿主の遺伝的な系統関係が腸内細菌叢に及ぼす影響は限定的である可能性がある。本研究は、近縁哺乳類宿主の腸内細菌叢の形成における宿主系統地理学と食物関連要因の相対的役割の理解に貢献するものである。<原文は英文>


書籍

1. 半谷吾郎、座馬耕一郎、好廣眞一 (2000) サルの分布を決めるもの. 高畑由起夫、山極寿一編著「ニホンザルの自然社会 エコミュージアムとしての屋久島」第一章 pp11-32. 京都大学学術出版会、京都.
2. 半谷吾郎 (2002) 分布南限の島. 大井徹、増井憲一編著「ニホンザルの自然誌」第十三章 pp229-250. 東海大学出版会、東京.
3. 半谷吾郎、松原始 (2018) サルと屋久島: ヤクザル調査隊とフィールドワーク. 旅するミシン店、東京.


その他の記事

1. 半谷吾郎 (2001) 屋久島自然系その5 屋久島のニホンザルの分布. 季刊生命の島55: 68-71.
2. 半谷吾郎 (2003) レッドリストの生き物たち4 「ヤクシマザル」 林業技術733: 38-39.
3. 半谷吾郎 (2003) 屋久島に追う野生ニホンザルの社会 エコソフィア 12: 20-26.
4. 半谷吾郎 (2021) 2020年のヤクザル調査隊. 霊長類研究 37: 79-81.


賞罰

1. 2005年度Ecological Research論文賞 受賞式
2. 2005年度日本霊長類学会高島賞 受賞講演
3. 2012年度日本生態学会大島賞  受賞講演 受賞講演動画 受賞式 選考理由

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